第111回 午後 問44
個人・家族・集団・組織の支援
人工呼吸器に関する問題
次の文を読み42~44の問いに答えよ。
Aさん(60歳、男性、自営業)は1人暮らし。つまずいたり転んだりすることが多くなり、精密検査のため入院したところ、筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉と確定診断された。近隣に住む弟(57歳)と一緒に運送業を営んでいたが、運転ができなくなり仕事を辞めた。弟が保健所に医療費助成申請の手続きのために来所し、保健師が面接したところ「兄は自宅で度々転んでいます。この先どのような生活になるのか不安です」と話した。保健師は今後の支援体制を検討していくために、入院している医療機関でAさんと面接し「最期まで住み慣れた自宅で誰にも気を遣わず生活したい」という意向を確認し、主治医とも病状について共有した。
Aさんが退院した日に、保健師は自宅を訪問した。保健師はAさんの支援体制を検討するために国際生活機能分類〈ICF〉を用いてアセスメントを行うこととした。
退院半年後、病状が進行したため要介護認定申請をしたところ要介護2であった。Aさんが弟以外から介護を受けることを拒否したため、介護保険サービスは福祉用具の利用のみとなった。弟は運送業を続けながら、Aさんの入浴介助や排泄後の後始末などを行っている。保健師が弟へ状況確認のために電話をすると「兄には心配をかけたくないので言えないのですが、毎日、介護と仕事で身体がつらくなってきました」と話した。
Aさんが誤嚥性肺炎で入院したことを機に今後の治療方針について検討を行った。Aさんは人工呼吸器の装着と胃瘻造設をしないという意思表示をした。数日後、Aさんの弟が保健所に来所した。「兄は人工呼吸器や胃瘻についてまだ迷っているようです。兄には長生きをしてほしいので病状が進行したら人工呼吸器をつけてほしい」と保健師に相談した。このときに保健師が弟へ伝える内容で適切なのはどれか。
- 1「皆で継続して話し合っていきましょう」
- 2「Aさんの死去後の生活を考えてみませんか」
- 3「Aさんが初めに表明した意思を尊重しましょう」
- 4「人工呼吸器を装着するとずっと付き添いが必要です」
答えと解説を見る
✓ これが正解1「皆で継続して話し合っていきましょう」
解説
意思は揺れ動くものとして、皆で話し合いを続けることを伝えます。
筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉は運動神経が徐々に障害される進行性の難病で、病状が進むと呼吸の筋肉の力が落ち、人工呼吸器を装着するかどうか、胃瘻を造設するかどうかという重い選択に向き合うことになります。こうした意思決定では本人の意思が最も尊重されますが、その意思は病状や生活の変化、家族の思いとの間で揺れ動くことがあるため、一度の表明で決まったものとせず、繰り返し話し合っていくことが大切です(アドバンス・ケア・プランニングの考え方)。
Aさんは装着しないと表明したものの、弟の目にはまだ迷っているように見えています。弟は長生きしてほしいという思いから装着を望んでいます。ここで保健師が、本人・家族・医療者が皆で継続して話し合っていこうと伝えることは、本人の揺れる思いを受け止め、弟の思いも話し合いの場に乗せ、Aさんが納得して選べるよう支えるものです。ほかの対応は、話題をそらしたり、結論を固定したり、一方に誘導したりして、話し合いを閉ざしてしまいます。
治療の選択の意思決定支援では、結論を急がず、本人を中心に家族や医療者と話し合いを重ねる、と覚えておくと判断しやすくなります。
ほかの選択肢はなぜ違うのか
- 2「Aさんの死去後の生活を考えてみませんか」:弟は兄に長生きしてほしいという思いで相談に来ています。その場で兄の死去後の生活を考えるよう促すことは、弟の気持ちを受け止めず、治療の選択についての話し合いからも話題をそらしてしまいます。
- 3「Aさんが初めに表明した意思を尊重しましょう」:本人の意思の尊重は大切ですが、意思は病状や生活の変化とともに変わることがあります。初めに表明した意思に固定してしまうと、迷っているAさんが考え直す機会や、弟の思いを伝え合う場を閉ざしてしまいます。
- 4「人工呼吸器を装着するとずっと付き添いが必要です」:人工呼吸器の装着後の介護の負担を強調すると、装着しない方向へ弟を誘導することになります。必要な情報は、本人と家族が選択を考える話し合いの中で、医療者と一緒に偏りなく伝えるものです。
出典:第111回 保健師国家試験 午後(厚生労働省)問44(改変:1問ずつ解ける形に加工(状況設定の文を各問に複写・図を文字に書き写し))。解説は当サイト独自のもので、厚生労働省とは関係ありません。
この解説に誤りを見つけたら教えてください。直して、直した記録を残します。誤りを報告する(メールが開きます)