令和8年度 午前の部 問25
刑法
私文書偽造罪に関する問題
文書偽造の罪に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 密入国者であるAが、法務大臣から再入国許可を受けるため、適法に在留を許可された他人であるB名義でその承諾なく再入国許可申請書を作成したが、Aは、長年自己の氏名としてBの氏名を公然使用し、Bの氏名がAを指称する名称として相当広範囲に定着していた。この場合、Aに私文書偽造罪は成立しない。
イ Aは、実在しない公務所名義の文書を作成したが、その文書はその形式外観において、一般人をして、その公務所が実在し、その職務権限内において作成された公文書であると誤信させるに足りるものと認められるものであった。この場合、Aに公文書偽造罪が成立する。
ウ Aは、弁護士ではないのに、同姓同名の弁護士が実在することを利用して、Bから弁護士としての業務を受任した上、当該業務に関してBに交付するため、「弁護士A」の名義で報酬金請求書を作成した。この場合、Aに私文書偽造罪は成立しない。
エ Aは、就職活動に使用するため、履歴書に虚偽の氏名、生年月日、経歴等を記載したが、これに自己の顔写真を貼付しており、その文書から生ずる責任を免れようとする意思は有していなかった。この場合、Aに私文書偽造罪は成立しない。
オ Aは、Bに対し、Cの代理人であると詐称し、C所有の自動車をCがBに売り渡す旨の売買契約書に「C代理人A」として署名押印し、完成した文書をBに交付した。この場合、Aに私文書偽造・同行使罪が成立する。
- 1アエ
- 2アオ
- 3イウ
- 4イオ
- 5ウエ
答えと解説を見る
✓ これが正解4イオ
解説
イとオが正しい。架空の公務所名義も、代理名義の冒用も偽造になる
文書偽造罪の成否について、判例で判断する問題です。判例は、偽造とは文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいうとしており、この物差しで各事例を見ます。
アについて、判例は、密入国者が長年自己の氏名として公然と使用していた他人の氏名で再入国許可申請書を作成した事案で、その文書の性質上、名義人は適法に在留を許可されている他人と理解されるので、人格の同一性を偽ったものとして私文書偽造罪の成立を認めています。アは誤りです。イについて、判例は、実在しない公務所の名義であっても、一般人にその公務所が実在しその職務権限内で作成された公文書と誤信させるに足りる形式外観があれば、公文書偽造罪が成立するとしています。イは正しい記述です。
ウについて、判例は、弁護士でない者が同姓同名の弁護士が実在することを利用して弁護士名義の文書を作成した事案で、名義人は弁護士資格をもつ者と理解されるので人格の同一性を偽ったものとして私文書偽造罪の成立を認めています。ウは誤りです。エについて、判例は、偽名などを記載した履歴書に自分の顔写真を貼った事案でも、名義人と作成者の人格の同一性に齟齬を生じさせたとして私文書偽造罪の成立を認めています。エは誤りです。オについて、判例は、代理権がないのに他人の代理人と表示して文書を作成した場合、その文書の名義人は本人であるとして私文書偽造罪の成立を認めています。オは正しい記述です。したがって、イとオの組合せが正解です。
名義人は文書を見た人が誰の意思の表示と受け取るかで決まる、と覚えると、通称・同姓同名・代理名義の事例を一つの基準で判断できます。
ほかの選択肢はなぜ違うのか
- 1アエ:アとエはどちらも誤りです。他人の氏名を長年使っていても再入国許可申請書では人格の同一性を偽ったことになり、偽名の履歴書は顔写真を貼っても私文書偽造罪が成立します。
- 2アオ:オは代理名義の冒用で私文書偽造罪が成立するという正しい記述ですが、アは誤りです。通称として定着していた他人名義であっても、再入国許可申請書の作成は偽造に当たるとされます。
- 3イウ:イは架空の公務所名義でも公文書偽造罪が成立するという正しい記述ですが、ウは誤りです。同姓同名の弁護士の存在を利用して作った弁護士名義の文書は、私文書偽造罪に当たります。
- 5ウエ:ウとエはどちらも誤りです。同姓同名の弁護士を利用した弁護士名義の請求書の作成も、偽名の履歴書の作成も、名義人と作成者の人格の同一性を偽るものとして偽造に当たります。
出典:令和8年度 司法書士試験 午前の部(法務省)問25(改変:1問ずつ解ける形に加工(肢の番号をそろえ、冊子の注記を各問に複写し))。解説は当サイト独自のもので、法務省とは関係ありません。
この解説に誤りを見つけたら教えてください。直して、直した記録を残します。誤りを報告する(メールが開きます)