令和4年度 午前の部 問24
刑法
刑法に関する問題
因果関係に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Aは、Bに対し、胸ぐらをつかんで仰向けに倒した上、首を絞めつける暴行を加えた。Bには重篤な心臓疾患により心臓発作を起こしやすいという身体的な事情があり、Bは、Aから暴行を受けたショックにより心臓発作を起こして死亡した。Aは、Bの心臓疾患について知らず、Bの心臓疾患という特殊事情がなければBは死亡しなかったと認められた。この場合、Aの暴行とBの死亡との間には因果関係が認められない。
イ Aは、5人の仲間と共謀して、Bに対し、マンションの居室で、約3時間にわたって、激しい暴行を加え続けた。Bは、隙を見て、同居室から逃走し、追跡してきたAらから逃れるために高速自動車国道に進入したが、進行してきた普通貨物自動車に衝突され外傷性ショックにより死亡した。Bは、Aらから暴行を受けたことにより、Aらに対して極度の恐怖心を抱いて逃走を図る過程で、Aらからの暴行や追跡から逃れるために、とっさに高速自動車国道に進入したものであり、その行動は著しく不自然、不相当ではなかったと認められた。この場合、Aらの暴行とBの死亡との間には因果関係が認められる。
ウ Aは、Bに対し、底の割れたビール瓶で後頸部を突き刺す暴行を加えて、後頸部刺創の重症を負わせた。Bは、病院で緊急手術を受け、いったんは容態が安定し、治療を受け続ければ完治する見込みであると診断された。Bは、その後、医師に無断で退院しようとして、治療用の管を抜くなどして暴れたことにより容態を悪化させ、前記後頸部刺創に基づく脳機能障害により死亡した。Aの暴行によりBが負った傷害は死亡の結果をもたらし得るものであった一方で、Bが医師の指示に従わず安静に努めなかったことで治療の効果が上がらずBが死亡したと認められた。この場合、Aの暴行とBの死亡との間には因果関係が認められない。
エ Aは、Bとけんかになり、金属バットでBの右足を殴打する暴行を加えて、Bに右大腿骨骨折の傷害を負わせた。Bは、自ら呼んだ救急車で病院に向けて搬送されたが、その途中、当該救急車が突如発生した竜巻によって空中に巻き上げられた上地面に落下したことによって、全身打撲により死亡した。AがBに負わせた傷害ではBは死亡しなかったと認められた一方で、BはAに傷害を負わせられなければ救急車で搬送されることも、竜巻が発生した場所に赴くこともなかったであろうと認められた。この場合、Aの暴行とBの死亡との間には因果関係が認められる。
オ Aは、深夜、普通乗用自動車(甲車)の後部トランクにBを閉じ込めて監禁し、その状態で市街地の片側1車線の道路上に甲車を停車させた。その数分後、普通貨物自動車(乙車)を運転してきたCが脇見運転をしたことにより甲車の存在に至近距離に至るまで気付かず、乙車を甲車の後部に追突させ、それにより、Bは、頸髄挫傷の傷害を負い、その傷害が原因で死亡した。Bの直接の死因は乙車による追突であり、Cの過失は甚だしいものと認められた。この場合、Aによる監禁行為とBの死亡との間には因果関係が認められる。
- 1アエ
- 2アオ
- 3イウ
- 4イオ
- 5ウエ
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✓ これが正解4イオ
解説
イとオが正しく、アとウは判例上因果関係あり、エは認められません。
刑法の因果関係(行為と結果の間に、刑事責任を問えるだけのつながりがあるか)について、判例が具体的な事案でどう判断してきたかを問う問題です。判例は、行為の危険が結果に現実化したといえるかという観点から判断する傾向にあります。
イは正しい記述です。判例は、長時間の激しい暴行を受けた被害者が、極度の恐怖心から逃走する過程で、とっさに高速道路に進入して事故死した事案で、その行動は著しく不自然・不相当とはいえず、暴行に起因するものと評価できるとして因果関係を認めています。オも正しく、判例は、被害者を自動車のトランクに監禁して路上に停車させたところ、第三者の甚だしい過失による追突で被害者が死亡した事案でも、監禁行為と死亡との因果関係を認めています。
アは誤りです。判例は、被害者に重篤な心臓疾患という特殊事情があり、行為者がそれを知らず、その事情がなければ死亡しなかったとしても、暴行がその特殊事情とあいまって死亡の結果を生じさせた以上、因果関係は認められるとしています。ウも誤りで、判例は、被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったことが治療の効果を妨げた事情があっても、暴行による傷害自体が死亡の結果をもたらし得る身体の損傷であった以上、因果関係は認められるとしています。エも誤りです。暴行で負わせた傷害では被害者は死亡せず、死亡は竜巻という全く予想できない自然現象によるものなので、暴行の危険が死亡に現実化したとはいえず、搬送されなければ死ななかったという条件関係があるだけでは因果関係は認められません。
したがって、正しいものはイとオです。被害者の持病や不適切な行動、第三者の過失が介在しても、行為の危険が結果に現れていれば因果関係は否定されない、と判例の傾向をつかむことが大切です。
ほかの選択肢はなぜ違うのか
- 1アエ:アもエも結論が逆です。持病という特殊事情とあいまって死亡した場合でも因果関係は認められ、他方で竜巻のような予想外の出来事による死亡では暴行の危険が現れたとはいえません。
- 2アオ:オを選ぶ点はよいものの、アを含んでいます。心臓に病を抱えた人を首を絞めるなどして死なせた場面では、加害者が病気を知らなくても、暴行が死につながったものとして責任を問われます。
- 3イウ:イは正しいものの、ウが入っています。被害者が医師の指示に従わなかった事情があっても、刺した傷自体が命にかかわるものだった以上、判例は因果関係を肯定しています。
- 5ウエ:ウは被害者の不適切な行動を理由に因果関係を否定している点で、エは条件関係があるだけで因果関係を認めている点で、それぞれ判例の考え方と合いません。
出典:令和4年度 司法書士試験 午前の部(法務省)問24(改変:1問ずつ解ける形に加工(肢の番号をそろえ、冊子の注記を各問に複写し))。解説は当サイト独自のもので、法務省とは関係ありません。
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