第26回 問題4
精神医学と精神医療
Aさん(74歳,女性)は,2年前に母親が亡くなった頃からふさぎ込むようになり,物忘れが徐々に目立ってきた。物忘れは,ついさっきのことを忘れることが多く,本人の物忘れへの自覚は乏しかった。数ヵ月前から,「お母さんが来ているでしょう」と夜中に何度も夫を起こすようになった。昼間は比較的しっかりしているが,時折,「誰かが財布を盗んだ」と訴えて,険しい表情になることがある。
次のうち,Aさんに疑われる診断名として,適切なものを1つ選びなさい。
- 1全般性不安症
- 2認知症
- 3うつ病
- 4統合失調症
- 5妄想症
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✓ これが正解2認知症
解説
近時記憶の障害と物盗られの訴えから、認知症が疑われます。
事例問題では、Aさんの経過と症状のうち、どれが診断の決め手になるかを先に押さえます。ここでの決め手は、物忘れが徐々に目立ってきたこと、ついさっきのことを忘れる近時記憶の障害であること、本人の自覚が乏しいことの3点です。これらは、加齢による物忘れとは違う、認知症の記憶障害の特徴に当てはまります。
さらに、財布を盗まれたと訴える物盗られ妄想は、アルツハイマー型認知症などで多く見られる行動・心理症状の一つです。夜中に亡くなった母親が来ていると言う場面は、夜間に混乱が強まる状態や、実際にはいない人が見える症状とも考えられ、昼間は比較的しっかりしている点と合わせて、認知症の経過の中で起こりうる様子です。
母親の死の頃からふさぎ込んでいた経過は、うつ病との区別を考えさせますが、うつ病による記憶の訴えでは、本人が物忘れを強く気にしていることが多いとされます。Aさんは自覚が乏しく、記憶障害が徐々に進んでいるので、認知症が最も適切です。
見分け方として、高齢者の物忘れの事例では、近時記憶の障害・徐々に進む経過・自覚の乏しさがそろうかを確かめると、うつ病や不安症との区別がつけやすくなります。
ほかの選択肢はなぜ違うのか
- 1全般性不安症:全般性不安症は、さまざまな事柄への過剰な心配が長く続く病気です。Aさんの中心はついさっきのことを忘れる記憶の障害と物盗られの訴えで、不安が主な症状とは読めません。
- 3うつ病:母親の死を機にふさぎ込んだ経過はありますが、うつ病で記憶の衰えを訴える人は、自分の物忘れを強く気にすることが多いとされます。自覚が乏しく記憶障害が徐々に進むAさんには当てはまりにくいです。
- 4統合失調症:統合失調症は多くが青年期から成人早期に発症し、幻聴や被害妄想などが中心になります。74歳で記憶の障害から始まり、物盗られの訴えが加わったAさんの経過は、この病気の典型とは異なります。
- 5妄想症:妄想症は、記憶や判断の働きが保たれたまま、まとまった妄想が続く状態です。Aさんは近時記憶の障害がはっきりしており、物盗られの訴えもその記憶障害を背景にしたものと考えるのが自然です。
出典:第26回 精神保健福祉士国家試験(公益財団法人 社会福祉振興・試験センター)問題4。問題文と選択肢は原文のままです。解説は当サイト独自のもので、同センターとは関係ありません。
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